『アクト・オブ・キリング』@イメージフォーラム

 

ジャック・タチ映画祭の『プレイタイム』が立ち見だったため、同じ館でやっていたこれに急遽変更。元々見ようと思っていたのでタイミング的には悪くなかったです。

今年度胸くそ悪い映画ナンバーワン!(←そんなランキングあるのか。笑)

かつて発生した虐殺の関係者に話を聞く、というのはこの手のドキュメンタリーではよくあるものなんだけど、他のドキュメンタリーと違うのは、被害者でなく、加害者に話を聞いたこと。この国ではなんと虐殺の加害者は英雄とされており今でも社会的地位があり大量殺戮は実際にあったにもかかわらず被害者は声をあげられない状態にある。(加害者が悪だという趣旨の発言をしただけで命が危ないそうだ。)そこで、取材者は加害者に的を絞った。加害者は英雄とされているわけだから、かつての自分の行為を悪いことどころか正義の行為・正しい行為だと思っているため、それはもううれしそうに当時の様子を再現するわけだ。ひとりひとりを殺した方法まで、丁寧に実況中継のように演じる。演じる、といっても、自分の行為の再現ということなのだが。こうして、世にも奇妙な胸くそ悪いドキュメンタリーの傑作が出来上がった。

とっても普通のおじいちゃん(孫をかわいがるような。好々爺といってもいい。まあ地元のヤクザの親分的な人ではあるんだけど、映像に映る限りはそれなりにいい人そうに見える。仲間との義理は厚そうだ。)がインドネシア虐殺の実行者でして。殺人って特別な人じゃなく、こんなに普通の人がやるんだ、って衝撃は大きかった。森達也の『A』とか『A2』に出てくるオウム真理教の人(映像で見る限りは普通のいいひと)を見た時の感覚に近いかもしれない。

私たちは、悪いことをした人を極悪人だと思いたがっている。しかし、世の中には極悪人なんていない。なんだか普通(に見える)の人が嬉々として殺人の様子をカメラに向かって語る・演じるものだから、とにかく倫理観が揺さぶられ混乱させられるのだった。